Q.新卒採用した社員の中に、能力的に問題があり、実際の業務遂行に支障をきたしている社員がいます。試用期間を3か月としています。試用期間経過後に本採用拒否することは可能でしょうか。
2020.01.28採用・異動・出向
A.試用期間満了後の本採用拒否については、
通常の解雇と比べて、ハードルが下がるイメージが
あるのですが、実際はそのハードルは決して低くなく、
通常の解雇に準じる理由が必要とされる場合が多いです。
今回のケースにおいては、本採用拒否の理由が、
「客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当として
認められるかどうか」を十分に検討する必要があります。
○試用期間とは
採用した社員が仕事への適格性や適応性、能力などを
持っているかどうかを見極める期間です。面接や
書類審査ではなかなか見極めきれない適格性を、
一定期間勤務して判断します。
勤務態度、能力、適性、人柄、健康状態等を見て、
正式に採用するかどうかを決定します。
○判例にみる試用期間中の解雇
試用期間について、これを法的には
「解約権留保付労働契約」
(本採用の取消を予定することを含んだ労働契約)
として取り扱うことが判例として示されています。
(三菱樹脂事件 最高裁大法廷 昭48.12.12判決)
上記の判例は、試用期間の解約権の行使について、
通常の解雇よりは広い範囲において解雇の自由が
認められてしかるべきとしましたが、
解約権留保の趣旨目的に照らして、客観的に合理的な
理由があり、社会通念上相当として認められる場合に
のみ許されると判断しました。
したがって、試用期間中の解雇であっても、
相当の理由があったとは言えないと判決されれば、
解雇命令が覆る可能性が十分にあるのです。
○試用期間の運用上の注意点
試用期間中の解雇におけるトラブルは
以下の三つが争点とされることが多いです。
トラブルを未然に防ぐために確認して
おきましょう。
1.本採用の取消事由が就業規則に記載して
あるか。
⇒就業規則上に通常の解雇だけでなく、
独自の項目として「本採用取消事由」を
記載しましょう。
2.社員の適格性の有無について、客観的に
判断できるデータがあるか。
⇒本採用基準の判断のための「評価表」を
用意しましょう。
下記のような職務遂行のための基本的能力、
技能・技術に関する能力について、
自己評価、上司評価、役員評価の三項目
で実施します。
「職場のルールを遵守しているか。」
「出勤時間等について定刻前に到着
しているか。」
「技術者としての自覚や社会的責任
をもって仕事をしているか。」
「正当な理由なく業務上知りえた秘
密をほかに漏らしたり、盗用した
りしていないか。」等々
3.会社が適格性がないことを本人に伝えて
改善の機会を与えていたかどうか。
⇒どのような点で適格性に問題があると
したのかを社員に伝えて、指導した記録
を残しておきましょう。
○就業規則等、雇用契約書への記載について
試用期間経過後、もう少し能力や勤務態度
を確認するために試用期間を延長したい場合、
就業規則に「延長することがある」ことを
記載しておかなければ、延長できません。
試用期間の柔軟な運用を行うために
その他にも、以下の内容は記載することを
お勧め致します。
・試用期間の長さ
・試用期間の目的
・必要な範囲での試用期間を延長する場合があること
・特殊な技能や経験を持つ社員においては、
試用期間を短縮する場合があること