Q.従業員による不適切な書き込みや動画のアップロードを防ぐために、会社として何か出来る事はあるでしょうか?
2022.05.27服務規程
A.損害賠償請求の明文化や誓約書の締結、監視カメラ等の設置、
社内研修の実施など、様々な対策があります。
自社の状況に合わせて正しく運用することで、従業員の
不適切行為を防げるだけでなく、その先の労務問題も予防
することが出来ます。
以下、具体的な例をご紹介いたします。
▼損害賠償請求の明文化
就業規則内で、社員の不適切行為により会社が損害を被った
場合、当該社員に損害賠償を請求することを明文化すること
が可能です。
しかし具体的な損害賠償金額を前もって明示しておくことは、
労働基準法16条で禁止されています。
▼誓約書の締結
入社時に取り交わす誓約書に、SNSに関する誓約書を組み込む
事も可能です。
誓約書の内容は「会社について不適切な投稿を行ってはなら
ない」のような抽象的な内容ではなく、「会社および取引
先名や業態、ブランド名が識別できる情報を投稿しません」
などのように具体的な禁止事項を記載しておくことが必要です。
抑止力となるだけでなく、賠償責任を問う際に労働者の過失が
認められやすくなることも期待できます。
会社が個人のSNS利用について制限を行う場合、憲法21条が
保障する「表現の自由」との関係が問題となりますが、過去の
裁判では「憲法21条1項は表現の自由を絶対無制限に保障した
ものではなく、公共の福祉のため必要かつ合理的な制限を是認
するもの」と判示されています。
(最高裁判所第二小法廷・平成20年4月11日判決)
つまり、会社名を公表した上で具体的な事実を摘示し、自社の
社会的評価を下落させるような表現行為については、たとえ
個人のSNS利用であっても表現の制限を受ける余地があります。
▼監視カメラ等の設置
防犯対策の他、従業員の不適切行動を抑止するために監視
カメラを設置する方法も考えられます。
個人情報保護法18条によると、監視カメラを設置する場合、
個人情報の利用目的をあらかじめ公表しておくか、または
個人情報の取得後速やかに本人に通知もしくは公表すること
が必要となりますので、その点には注意が必要です。
(ただし、同条4項4号によると、コンビニの防犯カメラ等
のように、設置目的が一見して防犯目的である事が明らかな
場合は設置の目的をあえて公表する必要はありません。)
▼社内研修の実施
社員のメディアリテラシーを高める研修を行う事も、不適切
行為を防ぐ大切な防止策です。
過去には機密情報を社内外に漏洩したことにより懲戒解雇が
認められた例(古河鉱業事件 東京高裁 平成10.4.22)や、
雑誌出版会社の社員が刑事事件の被告人を盗撮し、本人に
無断で写真を掲載したことが肖像権の侵害として認められ、
本人と会社に慰謝料の支払い責任が発生した事例があります。
(最高裁一小 平17.11.10判決)
社内研修の中で、規定違反を犯した場合にどのような懲戒の
対象となりうるのか周知することで、社員の当事者意識を
高めます。
また、その他に期待できる効果として、定期的な研修によって
社内のリテラシー水準が高まり、社員自身による風紀的予防
につながる点が挙げられます。
近年、社員に社用携帯を貸与している会社も少なくありません。
まずは社内の規定を改めて見直し、万が一の事態に適切な対応が
出来るよう整備を進めていきましょう。